複数パートナーの案件登録は、1件の営業案件に対して複数のパートナーがそれぞれ関与を登録できる案件登録の方式です。案件の保護と成果を1社だけに与える「勝者総取り」の方式とは異なり、複雑な案件では複数のパートナーがそれぞれ別の役割を担うという前提に立っています。
1社の登録から複数社の登録への移行
従来の案件登録は先着順の仕組みです。1社が案件を登録して承認されると、そのパートナーだけが独占的な案件保護と、マージン、価格設定、コミッションといった関連する特典を受けます。複数パートナーの案件登録は、この仕組みを次のように広げます。
- 初回登録。 最初のパートナーが案件を登録し、基本となる案件保護を確立します。
- 追加登録。 ほかのパートナーが同じ案件への関与を登録し、発掘、技術検証、導入、マネージドサービス、その他の貢献など、それぞれの役割を明示します。
- 役割の割り当て。 ベンダーのチャネルチームが登録内容を確認し、正式な役割を割り当てます。各役割には、マージン、コミッション、紹介料、将来のサービス収益といった特典が定められます。
- クレジットの配分。 ベンダーは、参加パートナーの間で売上クレジットをどう分けるかを定めます。固定の計算式に従う場合もあれば、案件ごとに交渉する場合もあります。
- 案件の進行。 登録したパートナーは全員、ベンダーのディールデスクと営業チームから見えるようになります。顧客への働きかけが重ならないよう、パートナー間の連携を管理します。
- 報酬の支払い。 案件が成約すると、各パートナーは割り当てられた役割と合意した配分に基づいて報酬を受け取ります。
複数パートナーの案件に合わせた報酬設計
エンタープライズの案件では、複数のパートナーが関わることがもはや珍しくありません。典型的なのは、案件を発掘した紹介パートナー、ソリューションの一部として連携するテクノロジーパートナー、導入を担うSIerなどです。1社だけを登録の対象とするモデルでは、評価されるのはこの中の1社だけになります。ほかのパートナーは評価されないか、別途の個別契約を交渉するしかありません。
こうなると、インセンティブに歪みが生じます。貢献が認められないと分かっているパートナーは、力を出し惜しんだり、協業を断ったり、そもそもチームでの取り組みを避けたりするかもしれません。その結果、案件の成果が損なわれてしまいます。
複数パートナーの案件登録は、複雑な案件がチームによる取り組みであることを認め、各社の貢献を役割に応じて報いることで、インセンティブを実態に合わせます。その結果、協業が進み、チャネル内の対立が減ります。顧客も、複数のパートナーの専門性を組み合わせた、より良い結果を得られます。
ベンダーにとっても、複数パートナーの登録はより豊かなパイプライン(案件の見込み)のデータをもたらします。1件の案件に1社のパートナーだけが紐づくのではなく、誰が関与し、各社が何を貢献しているかの全体像が見えるため、パートナープログラムの設計やリソース配分の判断に役立ちます。
役割・登録の流れ・導入のポイント
複数パートナーの案件でよく見られる役割
| 役割 | 貢献 | 一般的な報酬 |
|---|---|---|
| 発掘パートナー | 案件を特定し、紹介を行った | 紹介料または発掘マージン |
| ソリューションパートナー | 技術的な専門性または補完的な製品連携を提供した | 自社製品部分のマージンまたは協業料 |
| デリバリーパートナー | ソリューションの導入、設定、展開を担う | サービス収益。ベンダーからの導入インセンティブが付く場合もある |
| マネージドサービスパートナー | 販売後の継続的な運用とサポートを提供する | 継続的なサービス収益。ベンダーからのリベートが付く場合もある |
| 影響パートナー | 顧客に助言し、ソリューションを推奨したが、導入は担わない | 紹介料または影響ボーナス |
登録の流れ
典型的な複数パートナーの登録は、次の段階で進みます。
- 初回登録: 最初のパートナーが、顧客情報、案件規模、成約予定日を含む標準的な案件登録を提出します。
- 追加登録: ほかのパートナーが、同じ案件を参照する登録を提出します(顧客名、案件ID、ドメインで照合します)。追加登録には、役割の説明と想定される貢献を含めます。
- ベンダーによる審査: チャネルチームがすべての登録を確認し、役割を確定させ、重複する主張(2社が同じ役割を主張するなど)を調整します。
- 合意内容の文書化: 案件を先に進める前に、すべての関係者が役割と報酬条件の確認を受け取ります。
課題
- 複雑さ: 1件の案件に複数の登録が入ると、単独パートナーのモデルより高度な追跡が必要になります。案件の複雑さが大きいプログラムでは、複数パートナーの登録に対応したPRM(パートナー・リレーションシップ・マネジメント)システムが欠かせません。
- クレジットをめぐる争い: パートナー同士で、誰がどの貢献をしたかについて見解が食い違うことがあります。役割の定義と登録基準を明確にすると紛争は減りますが、完全になくなるわけではありません。
- 不正な登録: 貢献がわずかしかないのに、クレジットを得る目的で案件への関与を登録するパートナーが出てくることがあります。ベンダーによる審査と、貢献の検証を求める仕組みが歯止めになります。
- 調整の負荷: 案件に関わるパートナーが増えるほど、管理すべきコミュニケーションの経路も増えます。ベンダーの営業チームは、案件を1社に割り振るだけでなく、協業を取りまとめる必要があります。
複数パートナーの登録が効果を発揮するタイミング
複数パートナーの案件登録が最も効果を発揮するのは、次のようなプログラムです。
- 案件に複数のパートナーが関わることが日常的である(エンタープライズソフトウェアやクラウドインフラに典型的)
- ベンダーのGTMが、専門的な役割を持つパートナーエコシステムに依存している
- 同じ案件に取り組むパートナー同士のバッティング(チャネルコンフリクト)が、繰り返し問題になっている
- ベンダーが共同販売とパートナー同士の協業を促したい