ハイパースケーラーマーケットプレイスは、主要なクラウドインフラのベンダー(AWS、Microsoft Azure、Google Cloud)が運営するデジタルストアです。独立系ソフトウェアベンダー(ISV)、SaaS企業、サービスパートナーは、ここでソリューションを掲載し、価格を設定し、販売し、提供します。クラウドベンダーの顧客基盤に直接届くのが特徴です。代表例は、AWS Marketplace、Azure Marketplace、AppSource、Google Cloud Marketplaceなどです。各マーケットプレイスは単純なソフトウェアのカタログから発展し、年間で数十億ドル規模のソフトウェア支出を扱う主要な取引チャネルになっています。
検索、調達、導入
ハイパースケーラーマーケットプレイスは、3つの役割を同時に担っています。検索のプラットフォーム、調達の仕組み、そして請求と導入のシステムです。
掲載と検索
ベンダーは、ソリューション、その価格、導入モデルを説明する製品掲載を公開します。掲載はマーケットプレイスの検索可能なカタログに並ぶほか、厳選されたコレクション、カテゴリーページ、あるいはハイパースケーラーの共同販売による推奨を通じて、プロモーションされることもあります。掲載の種類は次のとおりです。
- SaaS: 製品はホステッドサービスとして提供されます。顧客はマーケットプレイスを通じて契約し、ベンダーのインフラを経由して製品を利用します。
- AMI/VMイメージ: 製品は仮想マシンイメージとして、顧客自身のクラウド環境にデプロイされます。
- コンテナ: 製品は、顧客のクラウド環境内でコンテナ化されたワークロードとして動作します。
- プロフェッショナルサービス: サービスパートナーが掲載する、コンサルティング、導入、マネージドサービスのオファーです。
- データプロダクト: 購読できるデータセットやデータフィードです。
調達と請求
マーケットプレイスは商取引の部分を担います。顧客は既存のクラウドアカウントで製品を購入し、料金はクラウドの請求書に載ります。この仕組みが大きな利点となる理由は次のとおりです。
- コミットメント額の消化: エンタープライズ割引プログラム(EDP)や、ハイパースケーラーとのコミットメント契約を結んでいる顧客は、マーケットプレイスでの購入をそのコミットメントに充当できることが多くあります。マーケットプレイスでのソフトウェアの購入額が、そのまま顧客のクラウドのコミットメントの消化額として計上されることもあります。
- 調達の簡素化: 顧客は新たなベンダーとの取引関係を結んだり、別途契約を交渉したり、別の発注書を処理したりする必要がありません。取引は既存のクラウド調達の関係を通じて進みます。
- プライベートオファー: ベンダーは、特定の顧客向けにカスタム価格を提示するプライベートオファーを作成できます。マーケットプレイスを通じて取引しながら、交渉した条件を適用できる仕組みです。
導入と管理
インフラにデプロイされる製品(AMI、コンテナ)については、マーケットプレイスが顧客のクラウド環境への導入を直接支援します。SaaS製品については、サブスクリプションの有効化とエンタイトルメントの管理を担います。
エンタープライズソフトウェアベンダーにとっての戦略的な重要性
ハイパースケーラーマーケットプレイスは、次の理由から、ソフトウェアベンダーにとって戦略上重要なチャネルになっています。
- クラウド予算へのアクセス: 企業がIT支出をオンプレミスのインフラからクラウドへ移すにつれ、調達予算はクラウドアカウントを通じて流れることが増えています。マーケットプレイスへの掲載は、ベンダーの製品を、すでに予算がある場所に置くことになります。
- 販売を加速させるコミットメント額: 顧客がマーケットプレイスでの購入を通じてクラウドのコミットメントを消化できれば、ソフトウェア購入の実質的なコストが下がります。調達上の障壁が取り除かれ、案件のクローズが早まることもあります。
- 調達の摩擦の軽減: エンタープライズのソフトウェア調達には、通常、法務レビュー、購買交渉、契約締結が伴います。マーケットプレイスの取引は、顧客のマスタークラウド契約がすでに条件を定めているため、こうした手間の多くを省けます。
- 共同販売の連携: ハイパースケーラーは、自社の営業チームにマーケットプレイス取引の推進を促すインセンティブを設けています。ハイパースケーラーのアカウントエグゼクティブが、パートナーのソリューションを自社のアカウントに持ち込もうとすれば、ベンダーはそのハイパースケーラーの顧客へのアクセスと影響力の恩恵を受けられます。
- データと分析: マーケットプレイスのプラットフォームは、掲載の閲覧数、トライアルの有効化、取引のパターンに関するデータをベンダーに提供します。こうしたデータは、製品とGTMの判断に役立ちます。
経済性、戦略、チャネルへの影響
マーケットプレイスの経済性
ハイパースケーラーのマーケットプレイスは取引ごとに手数料を課します。料率は、ベンダーとクラウドベンダーとの関係によって異なります。
- 標準の掲載は、取引額に対する手数料率が最も高くなります。共同販売に関与せずに掲載するベンダーのデフォルトの料率です。
- 共同販売およびISVプログラムの参加者は、ハイパースケーラーの営業組織と積極的に連携する見返りとして、大幅に低い料率が適用されます。
- プライベートオファーは個別に交渉され、案件の規模、戦略上の整合性、パートナープログラムにおけるベンダーのティアに応じて、手数料がさらに下がる場合があります。
- 収益認識: 通常は、ベンダーが売上を計上し、マーケットプレイスが請求の代理人を務めるモデルに従いますが、会計処理は異なる場合もあります。
手数料の構造は、AWS、Azure、Google Cloudで異なり、各クラウドベンダーは料率を時間とともに変更します。価格設定や利益率のモデルに手数料の前提を組み込む前に、ベンダーは各マーケットプレイスの現在の条件を直接確認すべきです。
マーケットプレイスの戦略的な判断
ハイパースケーラーのマーケットプレイスに取り組むベンダーは、いくつかの戦略上の判断に直面します。
- 掲載するマーケットプレイス: 多くのベンダーは、少なくともAWSとAzureには掲載します。Google Cloud Marketplaceは成長していますが、取引の母数は小さめです。複数のマーケットプレイスに掲載すればリーチは最大になりますが、運用の負担も増えます。
- 価格モデル: マーケットプレイスは、従量課金、年間サブスクリプション、複数年のコミットメント、利用量に基づく価格設定など、さまざまなモデルに対応しています。選ぶモデルは、ベンダーの既存の価格戦略と整合させつつ、コミットメント消化などのマーケットプレイス固有の利点を活かすべきです。
- プライベートオファーと公開価格: エンタープライズの案件では、交渉された価格が必要になることがよくあります。プライベートオファーを使えば、取引をコミットメントの対象にしたまま、交渉された価格に対応できます。
- チャネルパートナーの関与: 一部のマーケットプレイスはチャネルパートナープライベートオファー(CPPO)に対応しており、リセラーがマーケットプレイス取引に参加して利益を得られます。マーケットプレイスの調達上の利点を活かしながら、既存のチャネル関係を維持できます。
従来のチャネルへの影響
ハイパースケーラーのマーケットプレイスは、従来のチャネルモデルとの間に緊張関係を生みます。顧客がマーケットプレイスでソフトウェアを購入でき、その過程でクラウドのコミットメントも消化できるなら、従来のリセラーを通じて購入する価値提案は弱まります。ベンダーは次の方法でこの緊張関係に対処します。
- CPPOなどの仕組みを通じて、リセラーのマージンをマーケットプレイス取引に組み込む
- マーケットプレイスを調達の手段と位置づけ、パートナーがアドバイザリーと導入の関係を保つ
- マーケットプレイスを通じて取引された、パートナーが影響を与えた案件について、パートナーにクレジットを認める